前回からの続きで、「中卒」家庭から、女子中学No.1に挑戦するお父さんの話です。
12.5%っていくら?
さて、「中卒」の家系を打ち切るために娘に中学受験させることを決めたお父さんですが、いろいろと塾を検討してみて、塾ではダメだということに気づきます。
塾は、「それなりにできる子を超難関校に入れる」コースはあるのですが、「できない子を超難関校」に入れるクラスはないということに気づきます。つまり塾では、それなりの中学校にしか入れず、それでは、流路変更ができないのです。
そこで、お父さんは自分で教えることを決意します。しかしながら、お父さんも「中卒」で受験したこともなく、いきなり最初の計算問題で激しく躓きます。
ちなみに、最近の中学受験の計算問題はややおかしな状況になってます。正直、自分もそう簡単に解けません。一応大卒で理系ですが。。。
例えばこんな感じです。(移項してとくんでしょうか?はて小学生でそんなこと習ったけ)
このお父さんのすごいのは、こういった問題を何問も解き、そこに何かあると考え、じっと解答を見て分析します。そして数の表情に気づきます。
165×32は筆算するなよとささやいているではないか。244÷4も筆算するなよと笑っているではないか。
0.625を単に少数第3位までの数と思っていた私は、数に対する接し方をあまりにも知らな過ぎた。数を見た瞬間に分解したくなる感覚。バラバラにした状態を想像できる目。これが重要なのだ。
つまり、32は、2倍、2倍、2倍、2倍、2倍というように、倍の計算を5回して頭で求めるもので、ひっ算してはいけないそうです。また、0.625は、625/1000 などと分数に訳すのではなく、0.125 = 1/8ということで、0.5+0.125 = 4/8 + 1/8 = 5/8と一瞬で理解する必要があります。
なるほど、こういったテクニックが恐らく中学受験にはあったわけです。これを一から気付くところが、このお父さんのすごさです。
自分が心から頭が悪いと思っていたこと
実は、自分にとっても、0.625の話はかなり衝撃でした。目から鱗で、世の中の謎が解けた気がしました。
日頃の仕事の中で、
「160億円の12%ってことは、20億くらいか。」
とぱっと答える人がいるのですが、それを聞くたびに、
「すげー、この人一瞬で、160×12%が計算できるんだ」
みたいに感じていました。
この人とは、根本的に頭が違うのか、小さいときからそろばんやっていて暗算が得意なんだ、だからこの差は縮まらないんだと思ってました。
でも、違うんです。12%ってだいたい1/8なんです。ただ、それだけです。それを知っているかどうかだけです。160を8で割れば、20です。
他にも、比率の話や図形の話、いままで「自分は理系なのになんでこんなにも数学力がないんだろう」と感じていたのですが、その多くが、テクニックというか慣れであることがわかります。
いままで、自分がこころから頭が悪いと思っていたことが、一瞬にして謎が解けました。
40歳超えてるけどまだまだ学べるじゃないか、そんな勇気をくれる一文です。
勉強家のお父さん
さて、このお父さん、「中卒」と証していますが、かなり頭の良い方です。
すべての人の顔が異なるように、すべての数も異なる表情をもっている。…こうして数をみつめていると、算数って、計算って、こういうことを知るために繰り返し練習するのかもしれないと気付き始めた。
ただ気付くだけではありません。学ぶことに感動できるのです、このお父さん。
感動した、40年以上生きてきて、たかが計算に初めて感動した。素早く計算することって、数に対する接し方の違いなんだなと気付かされた。算数って大事なんだなと、勉強って大事なんだなと、やっぱり勉強しておくべきだったんだなと思うと涙が出てどうしようもなかった。佳織に隠れトイレで涙を流した。「遅いよ、もう…」ってつぶやいた。
学ぶことの大切さに心から気付くというのは結構難しいことです。
自分も仕事でたくさんの新人相手の教育を行いますが、その際、学ぶことに必要性を伝えようと試みています。「へー、面白いな」程度の人材はそこそこですが、心から学ぶことの楽しさを感じた人材は、ずば抜けて優秀になったります。
心から感じられるかは大きな差です。
子供を通じて人生が変わる
さて、子供の受験を通じて、一番人生が変わったのは恐らくお父さん
確かに、子供を通じて自分の夢を追いかている一面もあり、それはお父さんも認識してます。
受験直前の一ヶ月学校をまるまる休ませようとします。
「先生、申し訳ありません。明日から学校を休ませてください。どうかお願いします。何とかなりそうなんです。見逃してください」と私は何度も何度も頭を下げた。
「いつまでですか?」と先生は言った。
…
「先生、受験までずっとです。1月は全部です」と頭を下げたまま返事した。とても先生の顔なんて見ることができない。
…
すると先生は意外なことを口にしたー。
「蓄膿症が酷くなったのでしょうか。完全に治るのは時間がかかりますからね」
私は涙を堪えながらもう一度深く一礼し、欠席届を手渡したあとすぐに学校を出た。
…
予想外にも先生が協力的で休ませて勉強に集中させることができます。
でも、お父さん自身も抗鬱の薬を飲まずにはいられない状況になり、少しずつ狂気がやどってきます。
そして、私は気付いているのだろう。今やっていることが間違っていることであり、たとえエリートになることと引き換えだとしても我が子に教えてはならないことだということに…。
娘のためでなく、自分のためにやっていることに気づき始めます。
それでも狂ったまま暴走する理由も気づき始めている。私はまたふりだしに戻っているのだ。いつの間にか、佳織のための受験ではなく、私が夢をおいかけているのかもしれない。
親は、親でなければいけない。決して子ども利用して自分を飾ってはいけない
そう決心した自分はどこかへ行ってしまった。 - 結局、黒子にはなれなかった。
最後は、抗鬱剤を飲みながらぼろぼろになりながら、受験を終了します。残念ながら第一志望には受かりませんでしたが、別の滑り止めのかなりハイレベルの中学に受かり、次は東大を目指しているようです。十分に成功です。
でも、実は一番成功したのはたぶんこのお父さんです。
このお父さん、受験終了後に本を自費出版します。各出版社に売り込みをかけようやく一社の目に留まり、出版したところベストセラーに。素晴らしい努力・商才といったところです。
恐らく今となっては、書籍の印税、(塾とコラボして問題集も作ってます)
や講演(当面、バレるのでやらないと思いますが)等々で十分稼げるはずです。
あと、ブログもあり、ここでも稼げそうです。
もう、「中卒」で20代から給料が上がらない生活は恐らく脱しているのではないかと。
この本は、中学受験が題材ではありますが、40超えても何かスイッチ入れることで、人生を変えられるという成功の書籍とも言えます。
ちょっと感動する自己啓発本です。おすすめです。