中堅企業IT部門の日常

中堅企業IT部門の中間管理職で半研究者の雑談です。毎週火曜日更新予定

社員に余裕がないと会社は伸びません2 - 組織市民行動

前回は、「評価されるかどうかわからないけど、他の人を手伝うような行動」をOrganizational Citizenship Behavior(OCB)とよび、海外で多数研究されているという話しでした。

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OCBは組織にプラスか

さて、このOCBですが、本当に企業にとって良い影響がでるのでしょうか?

もし無駄に他の人を手伝えば、やる気のない人間が手を抜いたり、業務時間が伸びで人件費が増えたりしないのでしょうか?

 

それに関しては、いくつかの研究がなされており、例えば、Podsakoffらのメタ調査では、OCBと組織全体の業績とは中程度の相関係数(rc=.43)を示すと述べています。

Podsakoff, N. P., Whiting, S. W., Podsakoff, P. M., & Blume, B.D.(2009)Individual- and organizational-level concequences of organizational citizenship behaviors: A meta-analysis.

 

また、前述のOrganらの著書でも、 

組織市民行動 (HAKUTO Management)

組織市民行動 (HAKUTO Management)

  • 作者: デニスオーガン,スコットマッケンジー,フィリップポザコフ,Dennis W. Organ,Scott B. MacKenzie,Philip M. Podsakoff,上田泰
  • 出版社/メーカー: 白桃書房
  • 発売日: 2007/01
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平均すると、OCBは量的な企業業績指標に関する分散の約20 %,質的な業績指標に関する分散の19 %以上,財務効率性指標に関する分散の約25 %,顧客満足度(不満足度)の分散の約38 %を説明した。

と述べられています。

 

つまりOCBが積極的に行われると組織にとってもプラスの影響が出るようです。あたりまえと言えばあたりまえのような気もしますが。
 

OCBが機能する条件とは

OCBについてのここまでの議論は、日本の会社員にとってはあたり前のことで、「こんなのわざわざ研究して何をいまさら」とか言われるかもしれません。

ただ、学者がきちっと研究することの良い点の一つとして、適用範囲が明確になることがあります。どういった時に機能するのか、どういった企業で利用できるのか等が明確になります

 

OCBの研究でも適用範囲が研究されています。

日本大学の田中教授の記事によると、

Eatough,Chang, Miloslavic,&Johnson(2009)による組織市民行 動の規定要因についてのメタ分析によれば,自分 に割り当てられた職務負担が過剰であると感じら れたり,職務上役割葛藤(異なる役割を同時に担 わなければならない状態)が生じたときに,組織 市民行動は有意に減少することが示された 

 

従業員の職場で割り当てられる職務内容 や役割がある程度明確にされ,かつ担当する業務 量が過剰にならないようにしなければ,組織市民 行動は生じにくいことが示唆される 

と述べられています。

 

つまり評価が公平で仕事が適量でなければ、OCBは機能しません。むやみに働かせて、やる気搾取のようなことをやると、OCBは機能しないわけです。

 

さて、ようやくタイトルの話に戻ってきました。

 

企業にとって、OCBという行動は望まし行動で、会社の競争力を増すことができます。社員が必ずしも自分の仕事とは言えない範囲でも、他人を助け、組織として協力するということが企業にとってプラスとなります。

 

一方で、社員の極限まで効率化して仕事を詰め込むような働かせ方は、OCBを減少させます。つまり、人を絞ってできる社員にたくさん働かせることは、人件費を抑制し会社にとって短期的にプラスになるかもしれませんが、中長期的にみれば組織のOCBを減少させ、組織への影響もマイナスになる可能性があります。

 

「できるやつには仕事詰め込んでおけ」的な発想はおそらく間違いです。仕事をほどほどに振れば、「できるやつ」ほど 自分でさらに仕事を見つけて積極的に貢献するはずです。自分で次のチャンスを見つけて、行動を始めるはずです。そのためにも企業の20%ルールは死守する必要があるのです。

 

(先ほどの田中教授の書籍です。企業に関係しそうな心理学が概観できます。)  

産業・組織心理学エッセンシャルズ

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