さて前回はとある温浴施設で、インバウンドの観光客が大量に来てサービスが低下し、特にハイコンテクストなサービスはインバウンドと日本人の共存が難しいのではないという話でした。
とは言え、サービスが低下するからといって、インバウンド向けサービスをするなというのは無理なことです。
日本を支える観光産業
日本は人口も減り、マーケットも縮小していく中で、海外からのインバウンド顧客に支えてもらう必要があります。
海外から見ても日本は、安くて魅力的な観光地になりつつあります。
かつて日本は、アジア各国から見れば、サービスの良い国だけど高くてなかなか行けない観光地でありました。しかし、今では手頃でサービスの良い国になっているのです。
日本の一人当たり名目GDPは、2015年で32,479(USD)ですが、これは2001年とほぼ同額です。
世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF) - Global Note
一方で、中国は、2001年1,053(USD)、2015年 8,141(USD)とおよそ8倍になっています。差異は急激に減少しています。
また、天津、北京、上海については、もうすぐ20,000(USD)を超えるとも言われています。
中国の一人当たりGDP、10省が1万米ドル超え - 呉明憲コンサルタントの中国ビジネス日記
これらの都市のちょっとした富裕層は、平均的な日本人を超える収入を得ていると考えられます。
実際、上海あたりでは料理や宿泊施設など、日本と同等のものが日本よりも高くなっているそうです。
そういった人々から見れば、日本は安くてサービスの良い国になってきているのです。
また、国も積極的にインバウンド顧客を取り込もうとしています。
2015年の日本のインバウンド観光客は2000万人弱で、アジアで5位ですが、政府は、インバウンドの目標を2020年に4000万人とかかげてます。
入国者数ランキング | 統計情報 | 統計情報・白書 | 観光庁
政府、訪日外国人目標を一気に倍増 2020年=4000万人、2030年=6000万人(1/2ページ) - 産経ニュース
到達すればアジア2位の観光大国です。
日本としても、この観光収入を当てにしないと、経済が成り立たないのは明白です。
インバウンドと現地向けサービスを分けるか
インバウンドが増えるのは当然の流れで、それを受け入れ、サービスを提供する必要があります。しかし、それにより日本人にとってはサービスの低下に感じることも今後増えてくるでしょう。
では、サービスを提供する企業は、日本人・インバウンド観光客の両方に満足してもらうためにはどうすればよいのでしょうか。
その一つは、インバウンドと日本人向けサービスを分けるというのが考えられます。
簡単なのは、良く海外の観光地にある、観光客向けの店と、現地人向けの店というように、二つに分かれるというもの。よく海外にいくと、現地の人に「ここは観光客用だから高いよ」など言われることがありますが、明確にターゲットを変えて店を分けるのもありです。
また、日本人向けの価格を設定するというのもありです。以前、海外で日本語のメニューを渡されたのですが、日本語がわからないふりをして英語メニューをもらったところ、料金が違うという経験をしました。海外ではこういったあからさまな価格設定も結構あります。
他にも、こないだ見かけたのは、JALカード、JTBカードといった国内発行のカードもしくは、ベネフィット・ワンという国内の福利厚生のカードを持っている人は大幅割引というのがありました。意図しているわけではないと思うのですが、結果として日本人割引になっています。「日本人は、少し安くするからインバウンドが多くて、気になるところがあるかもしれないけれど我慢してね」ということかもしれません。
問題は、日本人が相手にされなくなること
ここまで、サービス提供する企業が日本人顧客も確保したいと考える前提で書いてきましたが、実際インバウンド顧客が中心になると、日本人は相手にしなくなるかもしれません。
日本人にとって問題なのは、サービスが悪化してもその料金を払うインバウンド観光客が大量にいることです。インバウンドが増えてサービスが低下し、日本人からクレームが来て、日本人客が遠のいたとしても、そんなのは無視すればよいのです。うるさくて金を払わない日本人は相手にしない、それでもビジネスが成り立つのです。長期的に成り立つかはわかりませんが、東京オリンピックごろまでの中期的な視点なら十分に儲かりそうです。
また、サービスを向上させるにも、ターゲットはインバウンド観光客です。恐らく日本人に向けたきめ細やかなサービスよりも、派手な演出に力を入れるかもしれません。
もうすぐ日本人が、中国やタイなどのアジア富裕層に合わせたサービスを受け入れて、暮らしていかなければならない時代が来そうです。
(日本の将来が気になる人にはオススメです。)