さて大手SIerは、「システムまるまる面倒みます」なんて営業をしますが、うまくいったためしはありません。
グループ企業一体で
大手のSIerは、複数のグループ子会社を持ち、システム開発や保守など役割を会社ごとに分担しているケースがあります。
例えば、本社X社が全体の管理を行い、Xソフトウェアという子会社がソフトウェア開発を行い、Xサービスという子会社が保守の面倒を見て、Xシステムという子会社がデータセンターを運用するというような体制を敷いていることがあります。
なぜ、会社を分けるかといえば、一番大きな理由は給与水準です。地方現場の機材を保守するのに、大手X社と同じ給与水準ではサービスが成り立ちません。クライアントに安価でサービス提供するためには、地方採用で、学歴・キャリアはこだわらない代わりに、本社よりも安価な知的ブルーカラーを大量採用する必要があります。
グループ内の価格調整
さてシステムを発注する側としてみれば、
「X社が全部面倒見てくれるなら面倒な調整もなくて楽そうだね」
となります。しかし実際はそうもいきません。
X社の内部では、保守を行う際には、親会社X社から子会社Xサービス社に仕事の発注が行われます。その際に、当然価格の交渉もありますし、また親会社X社が上前をはねることも当然あります。
親会社X社はクライアントのシステム開発を受注するために、クライアントの無理な値下げ要求に答えようとします。そのため、しばしば子会社への発注額を叩きます。グループ会社間で交渉は当然ありますが、しかしながら親会社が圧倒的に有利な状況です。Xサービス社のような子会社はある程度、親会社の威光をくんで低価格の受注を承認するしかないのです。
動かないサービス会社
さて、そんなこんなでめでたく親会社X社は受注し、なんとかソフトウェアも稼働します。そしていざ保守の段階にXサービス会社に引き継ぎが始まると、いろいろともめごとが発生します。
例えば、あまりに安く受注したので稼働人数を確保できておらず、同時に複数個所で障害が発生すると対応できない、などもしばしば見かけます。
Xサービスにしてみれば、価格を親会社に叩かれているわけで、それならサービスレベルを下げるしかないのです。クライアントからすると発注段階で、保守の細かなサービスレベルを確認するのは困難です。ましてや、保守会社がどのような体制を敷いているかなど知る余地もありません。
グループ会社であるがゆえの甘え
また、グループ企業に発注すると、グループ間での甘えが発生します。親会社X社、子会社Xサービス、クライアントなどという座組みで会議し、いざ調整ごとが発生すると、子会社X社が親会社に「そんな話は聞いていない」など言って、クライアント前でもめだすこともあります。
クライアントがX社とY社の別会社に発注していれば、クライアントが直接、大岡裁きで「この案件はY社がやれ」ともいえるのですが、直接発注先はX社で、X社がグループ会社ともめているとなると、あまり強く口をはさむ気にもなりません。
ときには、開発、保守、IDC運用などは、それぞれ別会社に発注してしまった方が、責任を持って職に臨むのでうまくいくケースも多々あります。
結局、クライアントは、あまり楽しようと思っちゃいけないってことです。ある程度は細かく面倒を見るつもりで、グループ企業丸投げにするのか、別会社にするのか判断する必要があるのです。
情シス・IT担当者[必携] システム発注から導入までを成功させる90の鉄則
- 作者: 田村昇平
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2017/04/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る